医療の現場から命について考える小説5冊
病院や介護の現場が出てくる小説を5冊紹介します。医療の話は難しそうに見えますが、今回選んだ本は、患者や家族、そこで働く人たちの気持ちを考えながら読める作品です。
神様のカルテ/夏川草介
信州の病院で働く内科医、栗原一止が主人公です。忙しい病院で患者に向き合う話なのですが、主人公の少し古風な話し方や、周りの人たちとのやり取りも面白いです。
患者を治すことだけが医師の仕事ではない、ということを考えました。病院の中でも、一人ひとりの患者にはそれぞれの生活があります。重い話もありますが、読み終えたあとに温かさが残る小説です。
勿忘草の咲く町で 安曇野診療記/夏川草介
安曇野の病院を舞台に、高齢者医療に向き合う人たちを描いた連作短編集です。『神様のカルテ』と同じ作者ですが、こちらは老いや看取りについて、もう少し現実に近い距離で考えさせられます。
治療を続けられるなら続けたほうがいいのか。本人の気持ちと家族の希望が違うときはどうするのか。読んでいて、すぐには答えを出せない場面が多いです。自分の家族のことにも重ねて考えてしまいました。
臨床の砦/夏川草介
感染症が広がるなかで、病院の現場に立つ医師たちの話です。医療のニュースを外から見ているだけではわからない、現場の切迫した空気があります。
医師も一人の人間なので、いつでも冷静でいられるわけではありません。それでも患者を診るために動かなければならない。その大変さが伝わってくる小説です。今回の5冊では、いちばん読むのに力が要るかもしれません。
いのちの停車場/南杏子
救命救急の現場で働いていた医師が、故郷に戻って訪問診療を始めます。病院で治療することと、患者の家を訪ねて生活を支えることは、同じ医療でもずいぶん違うのだと感じました。
患者だけでなく、その家で一緒に暮らす人のことも見えてきます。命を延ばすことと、どんなふうに毎日を過ごしたいかを、分けて考えられないところが難しいです。
その扉をたたく音/瀬尾まいこ
老人ホームで演奏をすることになった青年が、そこでサックスを吹く介護士と出会います。医師が主人公の話ではありませんが、年を重ねた人たちとの時間を描いた作品として入れました。
音楽をきっかけにホームに通うようになる主人公を見ていると、人と関わる入口は思いがけないところにあるのだと思います。病気や老いを扱う話を読んだあと、少し気持ちを和らげてくれる一冊です。